履歴書のうその見分け方

採用面接。応募者の誤魔化しを許さない!

 新年度のスタート。出発の季節です。しかし未曾有の経済危機のなかで、企業も、働く側も大変な状況です。特に再就職をめざす人々にとって厳しさは相当なようです。
 一方、採用を減らしている企業にとっては、いかに良い人材を見分けるか、眼力が問われます。
 そこで、中途採用に応募してくる人間をいかに峻別するか、私なりのノウハウをお伝えしていきたい。それは、私が総理首席秘書官の時代に行った閣僚候補のいわゆる「身体検査」とは、やり方は違いますが発想は一緒です。

 まず、最初に「履歴書のウソ」の見抜き方です。
 再就職しようとする人間は、自筆の履歴書を提出します。仮に過去の職歴がA社に5年、B社に4年と記してあったとしましょう。しかし、その内容はあくまでも自己申告です。もしかすると、実際はもっと頻繁に会社を変わっていて腰を据えて仕事をしたことがない。問題がありそうな業界で働いていた。あるいは何もせずにブラブラしていた。その部分は省いて、無難なA社の社名だけ書き、空白期間を埋めるために本当は2年なのにA社に5年勤務と誤魔化している可能性もある。
 採用する側としては、直近の職場は別として、それ以前についてチェックしようと思うと、そう簡単ではありません。結局、その履歴書の内容を前提に「字がきれいで几帳面そうだ」などといったことを判断材料にして、その場の雰囲気で採用するのが現状です。

 そこで、私ならどうするか。まず履歴書を提出してもらうまでは同じ。次に、それを受け取った後で、こう指示を出すのです。「次の面接までに社会保険事務所に行って、年金記録台帳のコピーをもらってきてください」。
 持ってきてもらった記録を見れば、過去の職歴は一目瞭然です。実際には1〜2年ごとに会社を変わり、過去に5回も6回も転職していたとわかれば、仕事に対する姿勢に疑問符がつきます。
 同時に、その記録で年金保険料の事業者負担額と本人負担額もわかるので過去の所得状況も把握できます。「前の職場では年収○○万円を得ていたので、その程度は欲しい」という本人の希望額が妥当かどうかもチェックできるというわけです。
 ポイントは履歴書を受け取った後に提出してもらうこと。第二次書類選考と称して、「次回の面接時に提出のこと」とするのです。すると、履歴書にウソを書いた人は「しまったッ!」となります。履歴書の内容とツジツマが合わないので、指定の面接日に、来社しないかもしれません。
 私は、目の前にいる人物が「なにをしてきたか」よりも「信用ができるか」が、人材登用のコツだと考えています。大きな話をする人よりも、自分について誠実に話すことのできる人を選ぶのです。まずは「公然情報」、つまり公にされている情報を厳しく精査することから始めましょう。

■免許証で浮かぶライフスタイル

 自動車免許証からも様々な情報を手に入れることができます。その人の性格や仕事への姿勢が判別できるかもしれません。
 免許証には、氏名や生年月日、本籍、住所、有効期限等々が書き込んであります。しかし、交付年月日欄の日付の右に、5桁の数字が並んでいることを意識している人はほとんどいません。
 実はこの数字を見れば、どんな時間帯に免許の更新に行ったか容易に想像がつくのです。先頭の数字は免許更新センターの撮影装置の番号で「15」ならNo.15のカメラで顔写真を撮ったということ。問題は下3桁です。この数字が「258」なら、No.15のカメラで258番目に受け付けたということを表しています。
 258番目ということは、当日だいぶゆっくり出かけていったということです。少なくとも朝一番の受け付け開始早々には行っていない。土・日や休業日でもなければ、サラリーマンが免許証を更新する場合、「明日、免許証の更新手続きをしなければいけないので」と会社や上司に「遅刻の許可」などを貰うことになるはず。しかし仮に、9時始業で昼間フルに勤務する普通の会社で、仕事に穴をあけずに免許更新しようと思ったら、どうするでしょう? いつもの朝より1時間以上早く家を出て免許センターに寄ってくる、あるいは受け付け前から並んで早い順番に手続きを済ませる。そういう行動を取るはずです。

 ところが、もし免許証に記されているのが大きな受付番号なら、免許証更新を理由に、半日あるいは1日ゆっくり行動したということになります。
 営業職を志望する人間で、もし平日にゆっくりと免許センターに行くことができているというのであれば、ちょっと業務を遂行する姿勢に問題ありです。仕事をサボって、または適当な理由を見つけるのが得意な人材である可能性がある。会社や職種によって勤務形態はいろいろあるので一概には言えませんが、番号一つで、その人がどんなライフスタイルを取る人間なのか、判別するための材料になるのです。

■「仕事のオンオフを明確にわける」という男のデマ

 面接の際の質問のヒントにするのもいいかもしれません。
 面接のときに「あなたは営業マンとして、どんなタイプですか」と質問してみて「就業時間は集中して仕事をするタイプで、仕事のオンオフはきっちりわけます」と答えたのに、実際の免許証コピーを提出させてみて、その数字が大きかったら、明らかに答えとズレがあるわけです。
 注意をしなくてはいけないのは、免許証の下3桁が、大きい数字であることが、仕事の適性を欠いているということではありません。適材適所の人材を見つけるための一つの判断材料だということなのです。

 靴や鞄も、人を見分ける手がかりになります。大切に使いこなしてきたか否か、その差が端的に出るものだからです。持ち主の性格がわかります。
 たとえば靴。一見同じような古靴でも、大切に履いて古くなったものなのか、単にズボラで履き潰した古靴なのか、観察すればわかるものです。日頃きちんと手入れをしていて古くなった靴と、そうでない靴とでは、同じ古靴でも汚れ具合が違います。
 鞄も、その人物が飽きやすい性格なのかどうかを示す一つのバロメーターだと、私は感じています。本当に使いこなした鞄を見ると、粘り強く努力するタイプだろうと想像できます。

 消費者金融の儲けの鉄則に「台所のきれいなオンナには金を貸すな」という言葉があります。逆に言うと、流しに食べ残しや昨夜使った食器が洗われないまま散乱していたら「お得意さま」だということ。几帳面に利息を返済されては儲からないからです。台所を汚いままにしておくような、ルーズな人間を相手にするほど、利子は膨らみ消費者金融の儲けは拡大するのです。
 この話を人事査定・人材の適性を見極める企業に当てはめると、当然、台所の汚い人間は歓迎できないということになります。とりわけ経理や法務など細かい作業を必要とする部門への配置は危険です。人事の配置や昇格で迷っているなら、何らかの理由を設けて突然、家庭訪問してみるのも、いい判断材料になります。台所に限らず、家族とどう接しているのか、どんな本を読んでいるのかなど、家庭訪問は実りの多い人事査定なのです。

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飯島 勲
いいじま・いさお●長野県辰野町生まれ。小泉純一郎元総理大臣首席秘書官。現在、松本歯科大学特任教授、駒沢女子大学客員教授